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2015年10月

知財戦略覚え書き

何かと話題になる知財戦略について考えてみたことをまとめてみました。

なお、この手の話題で必ず議論になる、「それは戦略ではなくて戦術である」ということについては、上位の組織における戦略は下位の組織において必ず戦術として具体化されるべきことであるので、戦略であるか戦術であるかを特段区別して議論する意味はないと思っています。加えて、上位の組織から見て、下位の組織が行うことは必ず戦術である一方、下位の組織から見て、上位の組織が行うことは必ず戦略になりますから、戦略であるか戦術であるかは、どの組織が実行するかで変わりますので、この点からも、戦略であるか戦術であるかを特段区別して議論する意味はないと思っています。

さて、知財戦略に関連する機関として、私は次の3つを挙げてみたいと思います。すなわち、企業(特に企業知財責任者を含む企業知財担当者)、経営コンサルタント、そして大学研究者または情報分析者です。それぞれの組織における知財戦略の意味するところを探ることで、知財戦略について考えてみたいと思います。

まず、企業における知財戦略です。企業における知財戦略の一番の特徴は、競争相手を特定しうること、そして、競争相手に特化した知財戦略を立案しうることです。従って、企業が立案する知財戦略は実に実践的であり、功を奏するならば企業に対して特段のメリットをもたらします。

一方で、この特徴は、時に、適応的な戦略になり、さらには、言葉は悪いですが個別撃破的な戦略になりうることにつながります。つまり、全体最適を狙うのではなく、特定の(しかも往々にして目の前にいる)競争相手を凌駕するための知財戦略を立案することに集中し、突然出現した競争相手への対応策が後手になる可能性を孕んでいます。
これは、自社を含めた、今風に言えばエコシステムの全体に目を配らないまま知財戦略を立案し、disruptive innovationというかemergingな企業の存在を認識しない状態でいるからだと思っています。こういった企業の姿勢は、今現在の競争相手を個別撃破的に対応せざるを得ない(目の前の敵を叩かないと明日がない)ことからして、ある程度致し方ないことでもあり、また、競争相手は突然出現することも往々にしてありますから、俯瞰的な視点を持っていないことそのものを責めることは難しいと思います。

当然、特定の競争相手に対する知財戦略立案機能が優れていることは企業の利点であると思っています。

次に、経営コンサルタントが考える知財戦略は、彼らが身につけているツールなりフレームワークなりを基本とします。このようなツールなりフレームワークは、企業戦略論、特に競争戦略論に立案していることが多いので、特定の企業に対する個別具体的な視点のみならず、俯瞰的な視点に立って業界全体を分析することができるメリットがあります。

一方、経営コンサルタントは経営戦略の専門家ではありますが、知財戦略の専門家ではありません。彼らは、知財戦略は経営戦略における個別戦略の位置付けであり、個別戦略も経営戦略論に従うので専門家であると主張するかもしれませんが、自分の経験からして、ここは首肯しづらいところです。
例えば、経営コンサルタントが身につけているSWOT、3C等のツール、フレームワークは現状分析を行うものとして意味がありますが、現状分析を踏まえた上での具体的な方策は知的財産の特徴を知悉せずには立案できません。

一方、企業の担当者等がこういったツール等を使用する場合にも注意すべき点があります。それは、上に書いたように、ツール等はあくまで現状分析を行うためのものであり、知財戦略について有効な解を与えてくれるものではない、ということと、ツールを使いこなすのにもそれなりの経験が必要であるので、生半可な知識で使うと、極端な場合は間違った解を導き出してしまうことがある、ということです。中小企業診断士の2次試験では、SWOT分析に基づく特定企業へのアドバイスを問う試験があると聞いたことがあります。それだけSWOTにしても何にしても、経験と知識が必要なものだということです。

次に、大学研究者や情報分析者の方々が知財戦略に関連するという話は、なかなか直感的に理解していただけないかもしれません。大学研究者等の方々がお持ちのスキルは、情報分析に関するスキルです。こういったスキルは、統計学をベースとし、また、多量のデータから有用な法則なりモデルを導くことができるものです。私がMOT社会人大学院に通って結構な衝撃を受けたのは、こういった社会科学における情報分析手法が、かなり有用な法則等を導き出していることでした。

とは言え、現時点で、大学研究者等の方々がお持ちのスキルをベースに、知財戦略に有用な法則等を導き出しているかといえば、いくつかの好例はあるものの、数は少ないという印象です。それは、統計学をベースとした情報分析手法が有用な法則等を導き出すには、前提となるモデルが当業者にとってある程度妥当性のあるものでないといけないと思うのですが、肝心な情報が企業等からあまり提供されていないので、モデルそのものも一般的なそれに止まってしまい、従って、当業者から見ると、前提条件に今ひとつ納得できない以上、その結果にも若干の疑義を感じるのです。

これらを踏まえて考えると、実に単純な結論なのですが、企業知財担当者の方々が、経営コンサルタントや大学研究者等の方々がお持ちのスキルを身につけていただくと、有用な知財戦略を立案できるのではないかと思っています。一般的な知財戦略論や情報分析スキルは他の方々が得意であっても、個別具体的事情を踏まえての知財戦略立案は企業担当者の方だけができると思っています。それは、競業他社の挙動の傾向や業界全体の慣行等は企業担当者が一番知悉しており、第三者である経営コンサルタント等はなかなか知り得ないものだからです。

現在、企業知財担当者の方々が、主に情報分析手法をベースに交流をされていることは承知しています。情報分析手法を超えて、知財戦略立案手法まで交流できる場があるといいと思うのですが、企業秘密等の壁があるので難しいのでしょう。とは言え、チャレンジされてもいいのではないかと思っています。

余談ですが、今回の記事で「弁理士」という言葉が全く出てきませんでした。弁理士は権利化手続という側面で企業に貢献しており、加えて、個別案件の権利化手続を代理していますから、知財戦略という観点での貢献は通常それほど大きくないと思っています。とは言え、弁理士の立場からすると、個別案件がその企業の知財戦略上どのような位置付けにあるかについてお伺いできると、例えば、中間処理においてどのような補正案を提案させていただけるか(力の入れ方が違うわけではなく、どのような権利を取得すべきかという点です)が変わってきます。従って、弁理士はこういった点で企業の知財戦略実行に貢献できるのだと思っています。逆に言えば、企業知財担当者の方々が、弁理士も企業の知財戦略実行に貢献しうるところがあることをご理解いただき、弁理士を巻き込んで知財戦略を実行していただけるといいのだと思っています。

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