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2016年4月

弁理士の仕事は人工知能に奪われるのか(補遺)

先日、人工知能と弁理士業務についてのBLOG記事を掲載したところ、思いの外反応があって、ちょっとだけ嬉しいです(但し、何となく私が議論の蚊帳の外にいる気もcoldsweats01)。皆さんの反応とかを拝見して、ちと書き足りなかったなぁと思う箇所がありましたので、少し長いですが補遺を。

先日の記事では、実は、ソフトウェア関連発明についての明細書作成業務に人工知能が使えるかという議論を意図的にしていません。それは、ソフトウェア関連発明と人工知能との親和性は結構あるので、真面目に議論するといよいよ自分の身が危ういかなぁという、何という保身的な考えに基づくものでした。とは言え、避けて通れる話ではないので、ちゃんと議論をします。

以下、ソフトウェア関連発明の明細書とは、機能実現手段により請求項が記載されており、この機能実現手段が記載された機能ブロック図及びハードウェアブロック図の少なくとも一方とフローチャートとが図面に記載されたものであると考えます。

この前提に立って考えると、発明が汎用コンピューター上で実現可能であるならば、機能実現手段の名称をある程度限定して考えることができます。つまり、制御部、入力部、出力部、記憶部、通信部くらいの機能実現手段に単純化し、各機能実現手段に「何が入力され」、この入力に基づいて「何をして」、そして、その結果として「何を出力する」かということを当該発明のSTFとして捉えることができます。この解釈は決して無理なものではなく、各機能実現手段をシステム的に考察したものと考えられます。特に、近年の米国特許出願実務では、「回路」が何をするかということを記述した請求項を立てることで、いわゆるmeans plus functionであるとの解釈を避ける請求項を立案することを推奨している事務所がありますので、この流儀に沿って記載した請求項は、上に書いたような手順による請求項と概略等しくなります。

少し前振りが長くなりましたが、こういった準備をした上で、発明者に、自分の発明を上に書いた機能実現手段のそれぞれに当てはめる作業をしてもらいます。要は、各機能実現手段への入出力及び処理内容を自然言語レベルで記載してもらいます。その上で、この自然言語レベルの記載を、類似する特許(公開)公報を参照しながら請求項としての表現に推敲、修正する作業を人工知能により行います。これで請求項の原案ができます。この原案に基づいて独立請求項及び従属請求項に入れるべき内容を人間が判断すれば請求項が完成します。加えて、従属請求項に加入すべき内容についても、類似する特許(公開)公報を参照して人工知能が推奨してもいいでしょう。

次に、背景技術と解決すべき課題については、発明者の自由記載でもいいですし、特許文献として記載すべき特許(公開)公報の要約を人工知能により作成してもいいでしょう。課題は幾つかの選択肢を予め用意し、それを選択させるやり方もできるでしょう。

ハードウェアブロックの説明は、汎用コンピューターであるならばほぼ一律にできますので、ここは適宜過去のものの使い回しができます。機能ブロック図の説明は、請求項の記載のコピーがあれば最低限の開示義務は果たせます。それ以上の記載を望む場合は、専門家の推敲が現状では必要だと思います。

問題はフローチャートです。フローチャート及びその説明くらいは発明者に作成してもらいましょう。フローチャートの自動作成作業に関する研究はされていると記憶しているのですが、特許明細書で要求されるフローチャートは実際のプログラムに対応するフローチャートと違うところが多々あると思いますので、現在までの知見を生かすのには時期尚早のように思っています。発明の効果は課題の裏返しですから自動作成ができそうです。図面の簡単な説明も発明者に作成してもらいましょう。ま、テンプレート的な記載もできますので、あるいは、ある程度の選択肢を用意すれば何とかなるかもしれません。

ハードウェアブロック図は使い回しができそうです。機能ブロック図も、機能実現手段を上に書いたように限定してしまうと、かなり使い回しができそうです。

以上の手順で作成した明細書原案を専門家が推敲すれば、出願に堪えうる明細書ができてしまいそうです。当然、このような手順で作った明細書は、正直なところ最低限のレベルを満足する程度のものだと思います。上に書いた手順には私が業務でやっているノウハウはほとんど入っていません。とは言え、人工知能を用いた明細書及び特許請求の範囲の自動作成はこの程度のレベルまで至ってるのではないかと思っています。こうなると、専門家としての私は、いかに定型化できないノウハウを明細書に盛り込むのかということを必死に考えないと、あっという間に人工知能に置換されてしまいそうです。

人工知能と特許業務との関係については、もう一つネタがあるので、これはそのうちに。

SW発明の特許適格性に関する覚え書き(汗)

本日も小ネタで。本当は、この間の人工知能ネタの続きを書く予定だったんですが、なかなか考えていると長くなりそうなので、まずは小ネタで(ってちっとも小ネタにならないかも)coldsweats01

本日は、こんなセミナーに参加してきました。まぁ、未だにいわゆるAlice判決が米国特許実務に与える影響はなかなかのもので(講師の吉田先生にも、セミナー後にこの点をお伺いしたら「まだまだ収まりませんねぇ」とのお言葉がcoldsweats02)、最新情報を入手するために参加してきました。

なかなか実務的に興味深いアドバイスを様々教えていただいて、有意義なセミナーでした。どんな内容だったかというのは、まぁ、セミナー参加者だけのものにするのがいいと思いますのでbleah、ここでは、講師の吉田先生が色々と悩んでおられたお話を。

Alice判決で引用したPrometheus(Mayo)判決での特許適格性判断のテスト(このテストは、USPTOの審査ガイドラインのフローチャートにもなっています)では、このフローチャートの流れに沿って説明すると、(A)101条法定の類型に該当するか、(B-1)自然法則、自然現象、抽象的アイデアのいずれかに該当するか、そして(B-2)該当してもsignificantly moreが存在するか、という順に判断を行っていきます。

この、significantly moreという要件は、Alice判決が出た当時から102条(新規性)や103条(非自明性)の要件と重複するところがあるのではないかとの指摘がありました。つまり、abstract ideaに対してsignificantly moreがあるということは、このabstract ideaと比較して何らかのinventive stepがあること、さらには、obviousnessがあることと密接に関連するのではないかという議論があります。この点について、講師の吉田先生は、ベン図(集合図)をホワイトボードに記し、101条の集合と102条の集合と103条の集合にはそれぞれ重複部分が存在すると考えていいのではないかと説明していました。

さて、ご存じの方も多いと思いますが、欧州特許条約においては52条において特許適格性の判断に技術的特徴の有無を入れていませんが、明細書の記載要件(施行規則27条)や特許請求の範囲の記載要件(施行規則29条)において間接的に、発明には技術的特徴が必要であることを要求していると考えられます。加えて、いわゆるPreamble部分には従来技術の技術的特徴を記載すること、明細書には発明の技術的効果を記載することが要求されています。これらを考えてみると、欧州特許条約では、特許適格性を満たすには、当該発明が技術的特徴を備え、しかも、その効果も技術的である必要があります。こう考えると、米国と随分違う判断をしていることがわかります。

で、日本ですが、ざっくり言えば、ソフトウェア関連発明において、「ソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源を用いて具体的に実現されている」(最近、この文言が審査基準から審査ハンドブックに移ったんですよねぇ)ならば発明成立性(特許法29条1項柱書要件)を認めています。なので、従来技術に対するsignificantly moreであるとか技術的特徴とかについては、発明成立性では問わないことが多いように感じています。この分、米国ではabstract ideaと判断される可能性の高い発明が、日本では発明成立性ありとされるケースが出てくるのではということを言われる方がいらっしゃいます。一方、従来技術と考えられるabstract ideaから出発してこれをコンピュータにより実現した場合は、進歩性なしとして処理されるはずです(審査ハンドブック付属書B第1章の2.2.3.2 当業者の通常の創作能力の発揮に当たる例 に書いてあります)。あと、特許請求の範囲に記載された発明が、全体として自然法則の利用性に欠けるとの判断がされることもあり得ますけどね。

つまり、従来技術であるabstract ideaから出発してこれをコンピュータにより実現した発明は、米国ではsignificantly moreがないとされ、EPOでは技術的特徴も技術的効果もないとされ、日本では進歩性ないとされるんだろうと考えています。最終的には似たような結論(特許性なし)になるわけですが、論理構成の差が面白いように思います。

まぁ、この辺の議論は知ってる方も多いかと思いますので、一つの覚え書きとして。

弁理士の仕事は人工知能に奪われるのか

本日は小ネタでhappy01

ちょっと前に、人工知能の進化により20年後には現在の職業で人工知能に置き換わってしまうものが発表されていました。その中に、特許明細書を作成する弁理士が入っていたように記憶しています。まぁ、多分、明細書って発明者のアイデアを文章化するだけでしょ、発明者と対話して明細書を作るシステムくらい作れるよね、って話なんだと思います。

この話をすこし真面目に考えてみます。明細書には3つの役割があるってのは最近の受験生の基本書には書いてないようなのですがcoldsweats01、まぁ、一番大事な権利書としての役割を果たすための明細書(正確には特許請求の範囲)には何が必要かというのを考えてみましょう。なお、以下の議論は私の知識がそれなりにある電気、機械関係の明細書です。化学系の特許請求の範囲の場合、先行技術に対する進歩性をどのように規定していいのか(教科書的な知識はあるので全くわからないのではないのですが)、実務的な観点からの議論がしにくいので、ちと今回の議論からは外します。

特許請求の範囲で必要なのは、先行技術に対するSTF(特別な技術的特徴)だと思います。STFがない特許請求の範囲を書いても出願をする意味はあまりありませんし、そもそも権利が成立しない可能性が非常に高いでしょう。その上で、特許請求の範囲を作成する手順は、先行技術と本願発明との比較、これらの比較結果に基づくSTFの抽出、そして抽出したSTFに基づいて構成要件の記述、となると思います。

これらの作業を人工知能で実現しようとした場合、多分、一番問題になるのがSTFの設定になると思います。言い換えれば、先行技術との対比の中で本願発明の新規となる部分の抽出と、この新規となる部分が進歩性を有するかどうかの判断です。これらはいずれも大変な作業になりそうです。

まず、本願発明と関連する「部分」の先行技術の抽象化が必要です。つまり、先行技術で一番あり得る先行特許(公開文献)の明細書には膨大な技術要素が記載されていますから、この技術要素を抽象化して本願発明と対比すべき部分を抽出する作業が必要です。次に、本願発明の抽出作業です。発明者が記載した文章、図面から技術要素を抽出し、これを抽象化する必要があります。そして、本願発明の要旨を逸脱しない範囲で本願発明の拡大等をします。

これら作業を人工知能が行いうるかどうか、が問題になります。「抽象化」とは要約を作成する作業とは微妙に違うと思います。ここでいう抽象化とは、審査基準の進歩性のところで記載している、引例と本願との対比作業に近いものです。つまり、「似ているのがどこか」という前提に立った上での抽象化になります。さて、これが人工知能でどこまでできるかなんですが、かなり難しそうです。また、発明の拡張の方法論はある程度あるわけですが、人工知能がこれを行うためには、例えば上位概念化、下位概念化の具体的事例を多数入力しないといけませんし、技術分野毎に学習させないといけないですから、これは大変な作業になりそうです。

その上で、進歩性の議論をします。進歩性の判断基準は審査基準、審決例、判例から一定のルールを作り出さないといけません。通常、人工知能は無数のデータを入力してこの中から一定の法則性を見いだしていきます。しかしながら、審査基準、審決例、判例の数(つまりサンプル数)が、多分、人工知能が法則性を見いだすには少なすぎます。この結果、人間の判断と比較してかなりのバラツキが生じる可能性が高いです。

構成要件の記述については、進歩性の判断ありきの問題ですので、何とも言えないところですが、もしかしたら、特許(公開)公報のデータを人工知能に全て放り込むと、好適な記述方法についてのアドバイスが得られるかもしれません。

一方、もしかしたら人工知能によるサポートが有効な部分があるかもしれないと思っている箇所があります。それは、審査対象としての明細書についてです。但し、新規性、進歩性については上述のような理由から難しいと思っています。一番効果的であると思うのが、記載不備の問題を解消するツールを人工知能を用いて作れないかと思っています。

いわゆる明細書チェックツールと呼ばれる、記載不備を解消するためのツールは各種販売されています。このチェックツールにおいて、さらにセマンティックな解析を行い、サポート要件、明確性要件についてのチェックができないだろうかと思っています。現状のチェックツールはword to wordの比較しかできていませんので、意味解釈をしないと本来のサポート要件や明確性要件の判断はできないと思います。

また、特許請求の範囲に記載されている用語が実施形態においてどのように定義されているかを、セマンティックな解析に基づいて抽出することもできると思います。用語定義は、特許権の活用時に第三者との議論が必ず生じるところです。

また、過去の特許(公開)公報データを入力し、類似技術の公報において言及している実施形態、変形例との比較で記載の過不足を判断できないかどうか。最近の明細書作成者の方の中には、明細書作成作業において過去の類似技術の公報を閲覧し、その中から転用可能な表現を抽出して活用されている方もおられるようです。明細書の著作権についての議論はあろうかと思いますが、面白い考え方だと思います。自分も、過去の類似技術の公報を見て、「ああ、こう書けばいいのね」と参考にすることはあります(表現は自分のものにしていますが)。

この範囲であれば人工知能によるサポートが可能なんではないかと思います。誰か作ってくれないかなぁ…(何という他力本願)coldsweats01

もう一つ、これも薮蛇になりそうなんですが、明細書に要求されるスペックって、結構クライアント毎に異なります。なので、明細書チェックツールを特定のクライアントにカスタマイズすることもできます。逆に、特定のクライアントが、明細書チェックツールを使って特許事務所の選別もできるわけで、こうなると、弁理士は明細書チェックツールに縛られることになります。あ、だから弁理士の仕事が人工知能に置き換わるのか(全然違う)bleah

「ITを巡るプロパテント/アンチパテントの潮流」

「ITを巡るプロパテント/アンチパテントの潮流」が昨日我が家に届きましたので、早速読了しました。知っている方のブログを拝見すると、発売前にブログで紹介されたことがきっかけなのか、出版社から献本があったご様子で、私は、身元を明かしていないのと(公式には)買ってから書評を書くのがいつもなので、自腹で購入しておりますdespair

で、読後の感想を。

「ITを巡るプロパテント/アンチパテントの潮流」という題名に違わず、特許制度が始まってからのプロパテントの傾向とアンチパテントの傾向、さらにはフリーミアムに代表される第三の流れについて、実にコンパクトにまとまっています。全体的に、既に発表されている書籍や記事について要領よくまとめた印象で、現在の特許制度とそれを取り巻く環境とを概観するには好適な書籍だと思います。つまり、筆者個人の感想なり意見を強く主張するよりも、抑制された態度で「何が起こったのか、起こっているのか」を的確に記述している印象を強く持ちました。

ですから、企業知財部担当者であれ特許事務所勤務者であれ、自分の立ち位置や将来起こりうるであろう行政、立法、司法の様々な決定事項に対して、上述した3つの立場、傾向から見てどう考えるべきかについての視点を与えてくれる、辞書的な使い方のできる書籍だと思います。

ある意味、知的財産(特に行政寄りの)を研究された大学院生の方が作成された博士論文的な感じを持ちました。博士論文が書籍になるのは決して珍しいことではなく、例えば、企業戦略で知名度の非常に高い「プラットフォーム・リーダーシップ」も、確か一方の著者の方(アナベル・ガワー氏)の博士論文に手を加えた書籍であったと記憶しています。

さて、ちとtweetしたように、この筆者のお名前、Google検索しても、この書籍関連以外のものが出てきません。筆者プロフィールからすると研究者としての実績もおありのご様子で、研究者であれば学会発表や論文発表の機会がそれなりにおありでしょうから、検索すれば大抵の場合論文等に行き当たるものと思っています。それが検索できないということなので、多分、諸般の事情によりペンネームを使われているのだろうと推測しています。

で、ここからが余計なお話で。では、筆者プロフィールに書いてある「電気メーカー」とはどこなのかを私なりに推測してみたいと思います。

この書籍の記載で、標準化技術の例としてファクシミリ及び移動体通信技術についての記載が比較的厚くなっています。一方、MPEG-2のパテントプールやハネウェル vs ミノルタの特許訴訟に関しては一般的な事項しか記載されていません。こう考えると、筆者が所属されておられる企業はファクシミリ(いわゆる複合機=MFPを含む)を製造しており、移動体通信に関する機器も製造している可能性が高い一方、いわゆるAV(オーディオビジュアル)機器やカメラは製造しておられないのではないか。で、この条件に合致するであろう電気メーカーは結構限定されます。また、電気メーカーという書き方に囚われず、複合機製造メーカーまで範囲を広げても、カメラを製造していない複合機製造メーカーもかなり限定されます。

そのうち何かしらの種明かしを某所からお伺いすることができる様子ですので、この推測がどの程度当たっているかはそれまでのお楽しみにしようと思っていますhappy01


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