« 「ITを巡るプロパテント/アンチパテントの潮流」 | トップページ | SW発明の特許適格性に関する覚え書き(汗) »

弁理士の仕事は人工知能に奪われるのか

本日は小ネタでhappy01

ちょっと前に、人工知能の進化により20年後には現在の職業で人工知能に置き換わってしまうものが発表されていました。その中に、特許明細書を作成する弁理士が入っていたように記憶しています。まぁ、多分、明細書って発明者のアイデアを文章化するだけでしょ、発明者と対話して明細書を作るシステムくらい作れるよね、って話なんだと思います。

この話をすこし真面目に考えてみます。明細書には3つの役割があるってのは最近の受験生の基本書には書いてないようなのですがcoldsweats01、まぁ、一番大事な権利書としての役割を果たすための明細書(正確には特許請求の範囲)には何が必要かというのを考えてみましょう。なお、以下の議論は私の知識がそれなりにある電気、機械関係の明細書です。化学系の特許請求の範囲の場合、先行技術に対する進歩性をどのように規定していいのか(教科書的な知識はあるので全くわからないのではないのですが)、実務的な観点からの議論がしにくいので、ちと今回の議論からは外します。

特許請求の範囲で必要なのは、先行技術に対するSTF(特別な技術的特徴)だと思います。STFがない特許請求の範囲を書いても出願をする意味はあまりありませんし、そもそも権利が成立しない可能性が非常に高いでしょう。その上で、特許請求の範囲を作成する手順は、先行技術と本願発明との比較、これらの比較結果に基づくSTFの抽出、そして抽出したSTFに基づいて構成要件の記述、となると思います。

これらの作業を人工知能で実現しようとした場合、多分、一番問題になるのがSTFの設定になると思います。言い換えれば、先行技術との対比の中で本願発明の新規となる部分の抽出と、この新規となる部分が進歩性を有するかどうかの判断です。これらはいずれも大変な作業になりそうです。

まず、本願発明と関連する「部分」の先行技術の抽象化が必要です。つまり、先行技術で一番あり得る先行特許(公開文献)の明細書には膨大な技術要素が記載されていますから、この技術要素を抽象化して本願発明と対比すべき部分を抽出する作業が必要です。次に、本願発明の抽出作業です。発明者が記載した文章、図面から技術要素を抽出し、これを抽象化する必要があります。そして、本願発明の要旨を逸脱しない範囲で本願発明の拡大等をします。

これら作業を人工知能が行いうるかどうか、が問題になります。「抽象化」とは要約を作成する作業とは微妙に違うと思います。ここでいう抽象化とは、審査基準の進歩性のところで記載している、引例と本願との対比作業に近いものです。つまり、「似ているのがどこか」という前提に立った上での抽象化になります。さて、これが人工知能でどこまでできるかなんですが、かなり難しそうです。また、発明の拡張の方法論はある程度あるわけですが、人工知能がこれを行うためには、例えば上位概念化、下位概念化の具体的事例を多数入力しないといけませんし、技術分野毎に学習させないといけないですから、これは大変な作業になりそうです。

その上で、進歩性の議論をします。進歩性の判断基準は審査基準、審決例、判例から一定のルールを作り出さないといけません。通常、人工知能は無数のデータを入力してこの中から一定の法則性を見いだしていきます。しかしながら、審査基準、審決例、判例の数(つまりサンプル数)が、多分、人工知能が法則性を見いだすには少なすぎます。この結果、人間の判断と比較してかなりのバラツキが生じる可能性が高いです。

構成要件の記述については、進歩性の判断ありきの問題ですので、何とも言えないところですが、もしかしたら、特許(公開)公報のデータを人工知能に全て放り込むと、好適な記述方法についてのアドバイスが得られるかもしれません。

一方、もしかしたら人工知能によるサポートが有効な部分があるかもしれないと思っている箇所があります。それは、審査対象としての明細書についてです。但し、新規性、進歩性については上述のような理由から難しいと思っています。一番効果的であると思うのが、記載不備の問題を解消するツールを人工知能を用いて作れないかと思っています。

いわゆる明細書チェックツールと呼ばれる、記載不備を解消するためのツールは各種販売されています。このチェックツールにおいて、さらにセマンティックな解析を行い、サポート要件、明確性要件についてのチェックができないだろうかと思っています。現状のチェックツールはword to wordの比較しかできていませんので、意味解釈をしないと本来のサポート要件や明確性要件の判断はできないと思います。

また、特許請求の範囲に記載されている用語が実施形態においてどのように定義されているかを、セマンティックな解析に基づいて抽出することもできると思います。用語定義は、特許権の活用時に第三者との議論が必ず生じるところです。

また、過去の特許(公開)公報データを入力し、類似技術の公報において言及している実施形態、変形例との比較で記載の過不足を判断できないかどうか。最近の明細書作成者の方の中には、明細書作成作業において過去の類似技術の公報を閲覧し、その中から転用可能な表現を抽出して活用されている方もおられるようです。明細書の著作権についての議論はあろうかと思いますが、面白い考え方だと思います。自分も、過去の類似技術の公報を見て、「ああ、こう書けばいいのね」と参考にすることはあります(表現は自分のものにしていますが)。

この範囲であれば人工知能によるサポートが可能なんではないかと思います。誰か作ってくれないかなぁ…(何という他力本願)coldsweats01

もう一つ、これも薮蛇になりそうなんですが、明細書に要求されるスペックって、結構クライアント毎に異なります。なので、明細書チェックツールを特定のクライアントにカスタマイズすることもできます。逆に、特定のクライアントが、明細書チェックツールを使って特許事務所の選別もできるわけで、こうなると、弁理士は明細書チェックツールに縛られることになります。あ、だから弁理士の仕事が人工知能に置き換わるのか(全然違う)bleah

« 「ITを巡るプロパテント/アンチパテントの潮流」 | トップページ | SW発明の特許適格性に関する覚え書き(汗) »

知的財産/特許」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 「ITを巡るプロパテント/アンチパテントの潮流」 | トップページ | SW発明の特許適格性に関する覚え書き(汗) »

2017年8月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    
フォト
無料ブログはココログ