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2016年9月

競争戦略やらコアコンピタンスやら(謎)

本日は時間がないので飛ばし気味に話を進めますcoldsweats01

先日、ネットニュースを見ていたら、気仙沼で日本製の高品質なニットを提供する「気仙沼ニッティング」という会社が、ハーバードビジネススクールの学生さんたちをインターンで受け入れた時のことを紹介した記事がありました。

で、このインターンの時に、インターン生に「海外展開」について検討をしてもらったところ、海外展開を規模拡大のための手段であると捉え、海外で安く作って売れば良いという意見まで出てきたそうです。何故、気仙沼ニッティングさんが海外展開を考えたかってのは、先程ご紹介した記事や気仙沼ニッティングさんのHPをご覧頂くとして、先程のインターン生の方々がある意味typicalな解答をしてきたのは、やはり、企業経営なり経営戦略として、いわゆるPorter流の競争戦略という文脈で考える癖があるんだろうと思うのです。

また先日、「世界一受けたい授業」で、JR東日本の清掃子会社であるテッセイ(7分間の奇跡で知られる会社です)の企業改革に関するケーススタディがハーバードビジネススクールで紹介されていることが取り上げられていて、その授業の中で、一時期経営不振に陥ったテッセイを蘇らせる手法として、これも定石ともいえるレイオフをするという意見が出てきたそうです。まぁこれも、ある意味競争戦略という文脈で考えるとこんな意見になるよなぁ、と思うわけです。

経営戦略論でPorter流の競争戦略ではないものとして有名なものに、コアコンピタンス経営というものがあります。詳細は成書に譲りますが、全くイコールではないにしても、知財関係者として馴染み深い、知的資産と似た概念だろうと思っています。このコアコンピタンスは、その企業が初見である場合は的確に把握することが難しいです。気仙沼ニッティングさんが海外展開を考えた理由の背景にある、高品質な手編みニットというのは、ある意味コアコンピタンスですし、7分間の奇跡にしても十分コアコンピタンスと言っていいものです。

競争戦略論からするとコアコンピタンスは他社との差別化要因という言い方になるんだろうと思うのですが、内的要因に基づく差別化要因は時に忘れられがちになる気がしています。SWOT分析でいうところのSを書く時に、コアコンピタンス的な視点を忘れずにいれば、クロスSWOTをすれば、このコアコンピタンスを活かした競争戦略を立案できると思うんですがね。

HPによるSamsungのプリンタ事業買収

これから時々知財ニュースを参照して、知財アナリスト的な記事も掲載していこうと思います。とは言え、仕事ではないのでツールが無料なものに限定されることもありweep、隔靴掻痒な内容になってしまうのが微妙に残念ですがcoldsweats01

Samusungがプリンタ事業をHP(最近、Hewlett-Packardが分社してプリンタ+PC事業の会社の名前はこれになりましたので、略称でも何でもないのです)に10億5000万ドル(だいたい1000億円くらい)で売却するというニュースは、これとともにSamsungが6500件以上のプリンタ関連特許および約1300人の研究者とエンジニアを獲得するということがニュースリリースに書いてあったこともあり、知財系のニュースでも報道されていたように思います。一応、日本語でのニュースとしてこれこれ、Samsung側のプレスリリースとHP側のプレスリリースとをそれぞれご紹介しておきます。

このニュースを聞かれた方の中には、「あれ?Samsungってプリンタやってるんだ」という素朴な疑問を持たれた方もそれなりにいらっしゃると思います。IDCが発表した直近の(2015年の)世界プリンター/複合機市場実績に関するプレスリリースをご紹介しておきます。このプレスリリースに紹介されている数字を見ると、Samsungが世界シェア第5位になっています。もう一つ、少し古い記事なんですが、Samsungは後発メーカーであることから脱却するために、他の事業(例えばTV)でやった手法である、デザインを重視することで付加価値を高めて売上を上げるといおう手法を採用しています。とは言え、Samsungのプリンタは日本国内になかなか入ってこないので、実像がつかみにくいのは確かだと思います。

ただ、上にご紹介したランキングの中に、インクジェット製品を主に販売されているエプソンが3位にランクされていることからもわかるように、このランキングはプリンター、複合機、コピー機の全てを足し合わせた数字ですので、対象製品はかなり広いということがおわかりになろうかと思います。

プリンター/複合機というカテゴリーで考えると、ざっと考えてみたら、いわゆるレーザープリンタ(これはプリンター単機能機ですね)、インクジェットプリンタ、複合機(コピーもファックスもプリンターも兼ねる)及びコピー単機能機が含まれます。レーザープリンタというカテゴリーで考えると、HPはIBM(今はLexmarkですね)とともにレーザープリンタとしては老舗に属します。普通紙コピー機はXeroxが世界に広めた後、日本のキヤノンを含めた各社が鎬を削り、そして、レーザープリンタ技術を応用したコピー機が出現したことで、レーザープリンタとの垣根が崩れたわけですが、世界的シェアで考えると、レーザープリンタと複合機とではその顔ぶれが違ってきます。カテゴリー毎のシェアについては、二次資料を見つけたのでここで貼っておきます。

プリンター業界のここ10年あるいはそれ以上前からのトレンドとして、大規模オフィスではネットワークを介して複数のプリンター/複合機に接続可能になり、特に、印刷枚数の管理及び削減、さらにはセキュリティの観点から、非接触式ICカードを用いて部署単位での印刷/コピー枚数の管理及び課金処理、そして複合機の前に行って非接触式ICカードをタッチして初めて印刷が可能になるなど、ネットワークソリューションを含めて提供することが求められています。

さて、先程ご紹介した資料から見えてくることは、HPによるSamsungのプリンタ事業買収は、単純に考えれば、Samsungが非本流事業を切り離す一方、HPはSamsungのプリント事業を知的財産権や従業員とともに入手して、レーザープリンタにおける地位をより堅固なものにするためであると言えそうです。

ただ、HPのプレスリリースや、既にご紹介したニュースを丹念に読むと、HPはキヤノンを初めとした他社から、いわゆるプリンタエンジンと呼ばれる部分(ドラムを含めたレーザープリンタの中核部です)を購入していたところ、Samsungのプリンタ事業買収に伴い、Samsungが製造していたプリンタエンジンに切り替えること、そして、HPは、買収のプレスリリースとともに、A3対応の複合機の新機種を発表しています。つまり、HPは、プリンタエンジンの調達先を一本化する決断をするとともに、これに伴って、日本メーカーの牙城である複合機事業のシェア拡大を目論んだ、ということです。実に戦略的な判断だと思います。

こういったストーリーを考えると、Samsungのプリンタ事業を日本の複合機メーカーが買収するという選択肢はあまり考えにくいです(ニュース発表時に、何故日本メーカーが買収しないのかという発言をFacebookでしましたが、前言撤回します)。日本の複合機メーカーは大抵プリンタエンジンを自社で製造しています。そして、仮に日本の複合機メーカーがSamsungのプリンタ事業を買収したとしても、Samsungのプリンタエンジンを持て余すことになると思います。

であるならば、日本の複写機メーカーは今まで通りの戦いをすることが得策になると言えます。面白いことに、キヤノンの御手洗さんはHPのプレスリリースで好意的なコメントを発表しています。これを穿った見方で考えるならば、キヤノンの有価証券報告書に記載されているように、キヤノンとHPとの間にはインクジェット製品に関するクロスライセンスがあり、また、Samsungは片面的な、つまり、レーザープリンタ事業の広範囲な技術についてにキヤノンからのライセンスを一方的に受ける契約が存在するようです。この情報に基づいて考えると、Samsungへのライセンスは相手先がHPに変わっただけであり、HPが複合機を売れば売るほどキヤノンにはライセンス料が入ってくることになります。キヤノンはHPにプリンタエンジンを販売していましたから、その分の損はあるものの、ビジネスとしては悪くないdealなのかもしれません。

あと、本来ならば特許数の比較もしたいところなのですが、HPはころころ社名を変えているので公報ベースの検索では名寄せが大変なのと、複合機に関する特許分類は多岐に亘るので検索自体が半端なく大変なので、大した検索はできていません。インクジェット製品を含めたプリンタ全般に関するIPCはB41Jですから、USPTOの登録ベースで検索するとSamsungで1057件、esp@cenetで8414件検索できました。一方、キヤノンだとUSPTOの登録ベースで703件、esp@cenetだと10000件を超えたので正確な数字が出ませんでした。で、これだけでは何か確定的なことは言えません。やはり無料のDBでは限界がありますねshock

教育経済学と特許経済学?

本日はちと知財関係ではない話題から。

1年ほど前の話題で、教育経済学に関する書籍が話題になったことがあります。教育経済学という言葉はあまり馴染みのある用語ではないと思うんですが、ざっくり説明すると、Wikipedia的に言えば、「教育と関連がある経済事象を取り扱う学問のこと」になるようです。まぁ、これだけだと当たり前すぎる定義ですので、では、経済学で教育を取り扱う意義として、これもWikipediaの記載を孫引きすると、「教育の経済的効果、教育の費用負担、教育における効率性と教育計画、教育の便益に関する分析」についての問題を取り扱うことが、教育経済学の幾つかの研究課題のようです。

1年ほど前に話題になったのは、慶應義塾大学総合政策学部(いわゆるSFCですね)の准教授である中室牧子さんの著書「学力の経済学」が結構なベストセラーになって、この著書の内容が幾つかのメディアで紹介されたことがきっかけだと思います。私は恥ずかしながらこの著書を読んでいないのですが、メディアで紹介された内容に基づいてざっくり書くと、例えば、ゲームは子供に悪影響を与える(ゲーム脳が子供を暴力的にするとか)という俗説に対して、ゲームのプレイ時間と問題行動などとの相関関係をアンケート等で明らかにし、統計学的にはどうなんだということを明らかにしたり、少人数教育の効果を同様にアンケート等により明らかにして、教育政策として一番効率的なものを探ったりしているようです。

当然、こういった議論には反論が出ます。曰く、うちの子はゲームばっかりしていたら問題児になった、ご褒美で釣ると効果が出ると言われてるけど、うちの子はご褒美をあげてもちっとも勉強しない、などなど。

しかし、教育経済学の結論と我が子の結果との間に違いがあっても、教育経済学が教育行政の効率を最大にすることを目的とし、また、統計学に基づいて多数の傾向を明らかにしている以上、上に書いた違いは当然生じるものですし、違いがあるからと言って、教育経済学の結論が間違っているわけでも、また、我が子の結果が間違っているわけでもありません。とは言え、教育経済学の結論は多数の傾向ですから、それと違うことを我が子に対してやることには若干の勇気が必要かもしれませんが。

さて、こんな畑違いの話題を延々としてきたのは、この辺の話って、知財関係にも通用するかもと思ったからです。

現在、知的財産権法以外の領域で(つまり、知財戦略とか知財マネジメントとかで)知的財産を研究する研究者、先生方が採用されているアプローチは、結構な場合、企業に対してアンケートを取ってこのアンケートを検討したり、また、知的財産に関するデータ(大抵は商用知財DBが出力可能か出力可能なデータから解析できるデータ)を統計処理してその傾向なり結論を導き出すものです。このアプローチ自体、経営学であったり技術経営学であったり、そういった学問で採用されているアプローチを適用したもので、MOTを専攻した私にとっても実にfamiliarなものです。

一方、企業の知財担当者、特に企業の知財戦略立案担当者からすると、我が社の実情を考慮した知財戦略の立案方法を、上に書いた研究者や先生方から入手できないか、というニーズはあると思います。

しかし、このニーズを満足する研究はなかなか簡単ではありません。それは、特定の企業が上に書いた多数に属するかどうかの保証もありませんし、そもそも、教育経済学であれ知的財産を研究する研究者、先生方がやっておられる学問である特許経済学(一応こんなネーミングにしておきます)であれ、「多数」がmajorであるとも言えないからです。

私がMOT時代に先人の研究を見ていて当初違和感を感じていたこととして、統計学上の関連性を示す相関係数が0.6~0.7程度であっても「相関性あり」として結論づけられていたものがほとんどだったことが挙げられます。実際、研究者の先生(実は同じ会社に所属していたことがある方です)と話をしていて、その先生も当初の学歴は理系ですので、やはり私と同じようなモヤモヤ感をお持ちだったそうですが、「社会科学で相関係数が0.9とかいくことはまずなく、0.6や0.7でも上出来なんですよ」という結論に至られたそうで、なるほどなぁと思ったことがありました。

一例として、「特許請求の範囲の文字数が少ないとその権利範囲は広い」という研究結果が出たとします。実務家ならお分かりの通り、この研究結果が妥当する特許権は確実に存在すると思いますが、一方で、幾らでも反証を挙げることができそうです。

相関係数がその程度になるというのは、そもそものモデル設定に無理があるというか、事象は複雑系ですので、簡単なモデル設定では全ての事象を説明することができないということだと思います。で、全ての事象を説明しうるモデルは逆に複雑になり過ぎて扱いづらい(変数が多すぎて何が何だかわからないし、関係性を記述する方程式も複雑になるので解法が簡単ではない)ですから、なかなか大変です。

あと、教育経済学と特許経済学との大きな違いは、母数の差があるということです。こう書くと、だって特許出願は日本だけでも年間30万件あるんだから十分ビッグデータだよねという反論があろうかと思います。しかし、企業の知財担当者が議論したいのは自社の特許出願(あるいは競業他社の特許出願)についてであって、この場合の母数は精々多くて数万件、大抵は数千件です。しかも、特定の分野についての特許出願を取り上げた場合、数百件レベルになってしまう可能性があります。統計学上、数百件をサンプリングして数万件の傾向を議論することはありますが、この場合、数百件が数万件を代表するという妥当性があってのことです。で、特定の企業なり分野なりに関する特許出願が特許出願全体を代表するという命題は、まず簡単に否定されてしまうでしょう。

この手の議論でなかなか悩ましいのが、知財評価においてDCF(ディスカウントキャッシュフロー)法により知財権の現在価値を算出する手法が結構紹介されているのですが、DCFにしてもこのDCFがベースとするCAPMにしても、証券取引のトランザクションが無数であるからこそ一定の傾向を読むことができるわけで、特許権の取引件数が圧倒的に少ない現状において「割引率ってどう設定するの?」という入口の入口で躓いてしまうわけです。

一方、特許経済学のアプローチの限界も自分自身は重々承知しており、また、知財政策への貢献という観点(この場合は多数の利益を追求することに問題はないわけです)であれば特許経済学が寄与するところは大であると思います。一方、特定の企業に対する明確な解答なり指針を与えるということは難しそうです。

経営学ですと、例えばSWOTやPPMなどのフレームワークが種々提案されており、PPMなどはある程度の客観的な指標に基づいたものですから、知財分野においてもこういったフレームワークがないだろうかと思うのですが、どうも「これ!」というものに出会えません。鮫島弁護士及びそのグループの皆様が幾つかモデルを提案されており(連載記事はこちら)、私も内容を存じ上げているのですが、統一的な特許戦略の指標とも言いづらいという印象を持っております。

考えてみると、10年ほど前から自分自身はずっとこの点を研究していて(日本知財学会で3回発表しました)、確か、現在日本大学の教授をしておられる加藤浩氏からは「具体性がない」とご自身の論文で批評されてしまったのですがcoldsweats01、いや、フレームワークを提示している以上、具体的にブレークダウンするのは皆さんにお考えいただかないとと思ったものの、やはりそれは自分自身の研究の至らぬところだなぁ、と思っています。

この点は、何とかフレームワークなり精緻なモデリングなりをいつか発表したいと思っていて、漠然としたアイデアはあるものの、ちとそれをやっている時間も余裕もない(毎日明細書を書かないとあっという間に干上がってしまう)ので、まぁ、そのうちですなぁweep

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