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人工知能と特許調査(続き?)

先週、特許・情報フェアに行って参りました。私自身は特許事務所内でひたすら明細書作成、中間処理作成業務をしていますから、特許・情報フェアに行くことは自分の業務に直接結びつくわけではないのですが、このところBLOGでしつこく取り上げている知財業務とAI(人工知能)との関わり方について現状を把握するために参加して参りました。実際、特許調査業務についてはいくつもの企業がAIを用いた商品を提案しており、その意味で非常に参考になりました。そこで、今回の知見を基に、先日書いた内容を振り返りながら、現時点で私が考える知財業務とAIとの関わり方について再度まとめてみました。

今回、特許・情報フェアで「人工知能」として展示されていたものは、いわゆる機械学習によるものとテキストマイニング(特に係り受け解析というか形態素解析)とがありました。テキストマイニングによるものを人工知能と呼んでいいものかどうか微妙なところなのですが、人間の作業労力軽減という観点からは同列に論じうるものですから、ひとくくりに「人工知能」と呼ぶことにします。

まず、特許調査業務についてです。見た目は概念検索的な特許調査DB、つまり、適当にキーワードを投げると最も関連すると思われる特許文献を検索してくるDBは幾つか展示されていました。入出力だけ考えると従前の概念検索とあまり変わらないように見えるわけですが、通常の特許調査DBエンジンに対してどのようなキーワードを投げるか、そして、抽出された大量の特許文献の中から関連性の高いものを抽出するか、この2点において人工知能を利用するものが展示されていました。
前者の場合、適切なキーワードを抽出するに当たっては、それまでのサーチャーのノウハウを機械学習等によりシステム化できるといいわけですが、私が見た例では、元々人手をかけてインデックスやDBを構築している既存企業が、人工知能によりある意味あいまい検索的にこれらインデックスやDBを用いて母集団を作成し、これを繰り返すことで抽出文献を収束させる取り組みをしていました。このやり方は、ある意味、インデックスやDBによる教師学習とでも言うべきもので、丁寧に作り込まれたインデックス等があったからこそできるビジネスであり、当該企業ならではのアプローチであると感心しました。新規企業ではこういったアプローチはできません。そして、教師モデルがしっかりしているからこそ納得できる出力が得られるわけです。
後者の場合、文書の近接度という観点からのアプローチになりますから、大量の文書を処理しうる人工知能であれば一定の結論を得ることができます。問題は、特許文献の近接度は技術的近接度であり、技術的近接度を単語なり係り受けからどの程度正確に見積もることができるかが勝負になります。この点、教師学習として特許調査子会社のサーチャーの方々のノウハウを積極的に導入されている企業もあり、既に大手企業が幾つも採用しているようです。ただ、このシステム、どのように導入されているのかを担当者にお伺いしたところ、企業が有する特許検索システムとの一体化はせずに、検索結果に対して後処理的に行うスタンドアロンのアプリケーションとして現状は提供しているようです。この場合、抽出結果をどのようにアプリケーションにフィードバックするんだろうと少し疑問に思ってしまいました。
後者のシステムは、ある意味で汎用的な文書処理人工知能エンジンの適用が可能なところです。実際、ある企業ではやや汎用的な人工知能エンジンを特許調査にどのように適用できるかについてのアドバルーン的な展示をしていました。また、上に書いたように、人工知能ではなくてテキストマイニングの専門企業が、係り受け解析において術語の切り分けを正確に行い(よくある特許明細書において長たらしい術語が出てきますが、これを途中で切断することなくきれいに切り分けている)、また、述語としての動詞の係り受け解析をきちんとしている例を紹介していました。係り受け解析において動詞の係り受け解析ができると、例えば、発明の目的のように「~することができる」という文章を綺麗に抽出することができますから、明細書中から課題を自動抽出できます。これは、私にとっては結構な驚きでした。こういった、やや汎用的な人工知能エンジンを利用したものについては、今後の展開が楽しみです。

このように、特許調査業務においては、人工知能を使ったシステムが着実に進化していることが理解できました。やはり、人工知能エンジンを専門的にかつ自前で揃えることができる企業がこれからどんどん強みを発揮するんだろうと思います。つまり、今の時点で本気で人工知能エンジンの開発、チューニングを行った企業のみが生き残れると思うのです。

次に、明細書作成業務ですが、これについては人工知能を使った展示がありませんでした(私が見る限りなかった)ので、最近考えていることについて補充します。

企業内のエンジニアが自分のアイデアを提案書にまとめる作業については、やや定型的なところがありますので、この作業について人工知能を用いてよりまとまった提案書を作成することは可能だと思っています。今現在でも、穴埋め形式で適宜文章を当て嵌めると提案書が完成するシステムはあります。とは言え、企業内で検討し、さらに特許事務所に出願代理を依頼するレベルまでブラッシュアップされた提案書を作成できるかどうかについては、発明者側のスキル(慣れだとか文章力だとか)に依存するところがまだまだあります。発明者の記載内容に対して不足部分を指摘するのは、例えば類似技術の自社公報を参照するとできない相談ではなさそうです。また、提案書作成システムであるならば、その後に知財部のチェックが入ることを前提に、提案されたアイデアの新規性/進歩性判断は知財部員に任せてしまえそうです。
では、この、人工知能を用いた提案書作成システムにより作成された提案書は、そのままでもう明細書に近い出来になるのでしょうか。言い換えれば、提案書作成システムがあれば特許事務所の弁理士はやることがどんどんなくなるのでしょうか。この辺りになると、かなり我田引水的な議論になりがちなのですが(苦笑)、まだまだだろうと私は思っています。
自分がクライアントから提案書を渡された時に、何を考えているかというと、まず、提案書に記載された発明を把握し、ついで、この発明を記述するために明細書及び図面に何を記載するかを考えます。つまり、発明の開示という観点から開示内容及び範囲が決まりますから、過去の類似技術の公報に記載された内容はあくまで参考に過ぎないということです。また、クライアント毎にこの開示内容及び範囲が異なり得ますから、そういった観点からの検討も必要です。一方で、提案書に開示された発明の拡張等を行い、どの範囲の権利が取得可能かも検討します。これも、過去のノウハウからだけでは導き出せないところがあります。
こうやって考えると、提案書から明細書を人工知能により作成するためには、少なくとも上に書いた作業の自動化が必要です。これは書くべき/書かないでおくべき、この発明に類似する技術への適用が可能/困難、こういった作業をどのようにして人工知能エンジンに行わせるか、現時点でなかなかアプローチが見つかりません。請求項の展開(上位概念/中位概念/下位概念)も同様です。
つまりは、こういった作業が弁理士としての専門的作業であり、まだまだ人工知能では達成し得ない作業なのではないかと考えるのです。

とはいえ、汎用的な人工知能エンジンの研究が進んでいますので、人工知能が行いうることもどんどん増えてくるでしょう。何ができる/できないかについては継続的に考えていきたいと思っています。

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