企業経営・技術経営

日本のモノ作り

BLOG更新が滞っていてすいません(別に謝ることでもないかもしれませんが)m(_ _)m。このBLOGも更新を全くしないこともあり、最近は色んな方の注目もあまり受けなくなったと勝手に考えていますのでcoldsweats01、気楽に書くことにします。とにかく、まだまだ公私ともに慌ただしい日々を過ごしているので、元気ではあります。

本日のネタは、これも全く結論がない与太話を。

日本のモノ作りが日本自身も賞賛するようになってきて、それはそれで評価が高くなることでしょうからあれこれ言うこともないと思いつつ、さて、そのモノ作りの優秀性はどこまで続くか(時間的観点で)について考えると、どうも気になってきます。

例えば機械加工について考えると、旋盤工の人が旋盤でミクロン単位の加工ができますということは、仮にマシニングセンタのメーカーがミクロン単位の加工を自動化する機械を作ってしまうとその優位性が揺らいでしまう可能性があります。当然、マシニングセンタにどの程度の精度を求めるかというのは、マシニングセンタの値段やらメンテナンスやらを考えると、高精度であることが正義とばかり言えないでしょうから、何とも言えないわけですが。旋盤工の人が人出でミクロン単位の精度を実現しているのは、機械化のメリットがあまりない分野での話だとも言えます。

自宅の近所に、へら絞り加工で日本全国レベルの知名度を持つ工場があります。大型金属部品のへら絞り加工は、現時点では人手に頼ることが多いわけですが、一方で、この工場の経営者さんは、中国の存在等を理由に、比較的小さい部品のへら絞り加工については機械化を図っていますということを仰っていました。つまり、先端を行く人であるからこそ人手に頼る部分と機械化が必要な部分との棲み分けを考えているわけです。

こう考えていくと、マスコミや政府、地方自治体の一部が日本のモノ作りの能力を時に手放しに礼賛していることに大きな違和感を感じます。例えば、あるバージョンのiPodの裏面の鏡面加工が新潟の工場で行われたことは大々的に報じられていましたが、その後、鏡面加工は海外の工場で行われるようになったとの情報もあります。

日本のモノ作りの最たるものとして考えられている自動車産業にしても、日本はすり合わせを活かして自動車を製造していますが、一方で、ドイツのフォルクスワーゲンは、徹底的な部品化、モジュール化を進めることで、全世界どこでも同じ品質の自動車を誰でも製造することができる仕組みを作っています。日系の自動車企業もモジュール化を漸次進めているのですが(例えばトヨタのTNGA)、フォルクスワーゲンには一日の長があるように思っています。

マイスターの技量は機械化によって脅かされる事実があります。日本のモノ作りはどこに向かうべきか、冷静に考える必要があります。

ベンチャー企業と普通の企業と特許事務所(意味不明)

もう夜中なので殴り書き程度にcoldsweats01

企業に勤務して、一応中間管理職に就いた私は、自分の後継者を育てるのも管理職の職務であること、また、仕事の内容を自分だけがわかる状況にしないこと(突然入院とかしても誰かが代わってくれること)を教えられました。結果的に自分のポストは組織改編でなくなってしまったので後継者を育てるまでには至らなかったのですが、私の仕事の内容を自分の部署の同僚がトレースできる状態にしておくというのは、当たり前ですが今でもコツコツと継続して実施しています。

とは言え、この作業は意外と手間のかかるものでして、ヒューマンリソースも時間もそれなりに必要とします。

今、とあるベンチャー企業と知財関係での付き合いがありまして、このベンチャー企業での業務の進め方を見ていると、こういった業務の継続性であるとか後進への財産の相続性であるとかをある程度犠牲にして、スピード重視で業務を進めているという印象を受けています。逆に言えば、専門知識や人材を外部から調達することで、社内に一定の財産を蓄積する時間を省いているように見えます。あるいは適切にアウトソーシングすることで、社内に部署や業務を作らない工夫をしているように見えます。

この考え方は合理的なものであると思いますが、企業の継続性という観点からはどこかで考え方を変えざるを得ない時期がいつか来るとも思います。当然、その時期になるともうベンチャー企業とは呼べないわけですが。

さて、こう考えると、特許事務所はベンチャー企業でも普通の企業でもないと思っています。それは、業務が非常に属人的であり、また、弁理士業界の人材流動性は非常に高いので、専門知識を有するヒューマンリソースを外部から調達することが比較的容易ですから、特許事務所内において人材育成に割く時間を確保せずとも業務を遂行することができるからです。一方、案件単位の継続時間は長い(特許だと数年単位)ですから、業務の継続性は地味に必要なのですが、先程言ったように、弁理士業界の人材流動性は非常に高いので、業務の継続性を確保するためにはそれなりの努力が必要です。

業務が非常に属人的であることと業務の継続性を確保することとは、弁理士が長期間に亘って勤務するならば両立は簡単ですが、人材流動性が高いことでこの前提が崩れてきます。かつては、業務の継続性を担保するために大量の紙ドキュメントを包袋内に保管していたわけですが、ペーパーレス時代においてそのようなやり方はあまり好ましくありません。必要なデータなりドキュメントを比較的長期間(とはいえせいぜい10年程度)保管し、所内の誰もがアクセスできる環境を整えるという観点を持っている事務所はかなり少数派であるように思います。

もう一つの後進を育てるという観点は、特許事務所だとなかなか持てないように思います。それは、先程言った、業務が非常に属人的であることと、事務所内での人事異動がそれほどない(そもそもポスト自体が少ない)ので、後進を育てる必要がどの程度あるかということが理由のように思います。当然、所内の担当者の業務能力の育成、向上はどの事務所でも行っていることだと思いますが、自分が担当しているクライアントの案件をいずれ誰かに引き継ぐという発想はなかなか持てないように思います。

しかしながら、これこそが業務の継続性だと思うわけで、この発想を特許事務所にどうやって取り入れるかってのは非常に難しい問いだと思っています。

とりとめのない話で失礼wink

競争戦略やらコアコンピタンスやら(謎)

本日は時間がないので飛ばし気味に話を進めますcoldsweats01

先日、ネットニュースを見ていたら、気仙沼で日本製の高品質なニットを提供する「気仙沼ニッティング」という会社が、ハーバードビジネススクールの学生さんたちをインターンで受け入れた時のことを紹介した記事がありました。

で、このインターンの時に、インターン生に「海外展開」について検討をしてもらったところ、海外展開を規模拡大のための手段であると捉え、海外で安く作って売れば良いという意見まで出てきたそうです。何故、気仙沼ニッティングさんが海外展開を考えたかってのは、先程ご紹介した記事や気仙沼ニッティングさんのHPをご覧頂くとして、先程のインターン生の方々がある意味typicalな解答をしてきたのは、やはり、企業経営なり経営戦略として、いわゆるPorter流の競争戦略という文脈で考える癖があるんだろうと思うのです。

また先日、「世界一受けたい授業」で、JR東日本の清掃子会社であるテッセイ(7分間の奇跡で知られる会社です)の企業改革に関するケーススタディがハーバードビジネススクールで紹介されていることが取り上げられていて、その授業の中で、一時期経営不振に陥ったテッセイを蘇らせる手法として、これも定石ともいえるレイオフをするという意見が出てきたそうです。まぁこれも、ある意味競争戦略という文脈で考えるとこんな意見になるよなぁ、と思うわけです。

経営戦略論でPorter流の競争戦略ではないものとして有名なものに、コアコンピタンス経営というものがあります。詳細は成書に譲りますが、全くイコールではないにしても、知財関係者として馴染み深い、知的資産と似た概念だろうと思っています。このコアコンピタンスは、その企業が初見である場合は的確に把握することが難しいです。気仙沼ニッティングさんが海外展開を考えた理由の背景にある、高品質な手編みニットというのは、ある意味コアコンピタンスですし、7分間の奇跡にしても十分コアコンピタンスと言っていいものです。

競争戦略論からするとコアコンピタンスは他社との差別化要因という言い方になるんだろうと思うのですが、内的要因に基づく差別化要因は時に忘れられがちになる気がしています。SWOT分析でいうところのSを書く時に、コアコンピタンス的な視点を忘れずにいれば、クロスSWOTをすれば、このコアコンピタンスを活かした競争戦略を立案できると思うんですがね。

HPによるSamsungのプリンタ事業買収

これから時々知財ニュースを参照して、知財アナリスト的な記事も掲載していこうと思います。とは言え、仕事ではないのでツールが無料なものに限定されることもありweep、隔靴掻痒な内容になってしまうのが微妙に残念ですがcoldsweats01

Samusungがプリンタ事業をHP(最近、Hewlett-Packardが分社してプリンタ+PC事業の会社の名前はこれになりましたので、略称でも何でもないのです)に10億5000万ドル(だいたい1000億円くらい)で売却するというニュースは、これとともにSamsungが6500件以上のプリンタ関連特許および約1300人の研究者とエンジニアを獲得するということがニュースリリースに書いてあったこともあり、知財系のニュースでも報道されていたように思います。一応、日本語でのニュースとしてこれこれ、Samsung側のプレスリリースとHP側のプレスリリースとをそれぞれご紹介しておきます。

このニュースを聞かれた方の中には、「あれ?Samsungってプリンタやってるんだ」という素朴な疑問を持たれた方もそれなりにいらっしゃると思います。IDCが発表した直近の(2015年の)世界プリンター/複合機市場実績に関するプレスリリースをご紹介しておきます。このプレスリリースに紹介されている数字を見ると、Samsungが世界シェア第5位になっています。もう一つ、少し古い記事なんですが、Samsungは後発メーカーであることから脱却するために、他の事業(例えばTV)でやった手法である、デザインを重視することで付加価値を高めて売上を上げるといおう手法を採用しています。とは言え、Samsungのプリンタは日本国内になかなか入ってこないので、実像がつかみにくいのは確かだと思います。

ただ、上にご紹介したランキングの中に、インクジェット製品を主に販売されているエプソンが3位にランクされていることからもわかるように、このランキングはプリンター、複合機、コピー機の全てを足し合わせた数字ですので、対象製品はかなり広いということがおわかりになろうかと思います。

プリンター/複合機というカテゴリーで考えると、ざっと考えてみたら、いわゆるレーザープリンタ(これはプリンター単機能機ですね)、インクジェットプリンタ、複合機(コピーもファックスもプリンターも兼ねる)及びコピー単機能機が含まれます。レーザープリンタというカテゴリーで考えると、HPはIBM(今はLexmarkですね)とともにレーザープリンタとしては老舗に属します。普通紙コピー機はXeroxが世界に広めた後、日本のキヤノンを含めた各社が鎬を削り、そして、レーザープリンタ技術を応用したコピー機が出現したことで、レーザープリンタとの垣根が崩れたわけですが、世界的シェアで考えると、レーザープリンタと複合機とではその顔ぶれが違ってきます。カテゴリー毎のシェアについては、二次資料を見つけたのでここで貼っておきます。

プリンター業界のここ10年あるいはそれ以上前からのトレンドとして、大規模オフィスではネットワークを介して複数のプリンター/複合機に接続可能になり、特に、印刷枚数の管理及び削減、さらにはセキュリティの観点から、非接触式ICカードを用いて部署単位での印刷/コピー枚数の管理及び課金処理、そして複合機の前に行って非接触式ICカードをタッチして初めて印刷が可能になるなど、ネットワークソリューションを含めて提供することが求められています。

さて、先程ご紹介した資料から見えてくることは、HPによるSamsungのプリンタ事業買収は、単純に考えれば、Samsungが非本流事業を切り離す一方、HPはSamsungのプリント事業を知的財産権や従業員とともに入手して、レーザープリンタにおける地位をより堅固なものにするためであると言えそうです。

ただ、HPのプレスリリースや、既にご紹介したニュースを丹念に読むと、HPはキヤノンを初めとした他社から、いわゆるプリンタエンジンと呼ばれる部分(ドラムを含めたレーザープリンタの中核部です)を購入していたところ、Samsungのプリンタ事業買収に伴い、Samsungが製造していたプリンタエンジンに切り替えること、そして、HPは、買収のプレスリリースとともに、A3対応の複合機の新機種を発表しています。つまり、HPは、プリンタエンジンの調達先を一本化する決断をするとともに、これに伴って、日本メーカーの牙城である複合機事業のシェア拡大を目論んだ、ということです。実に戦略的な判断だと思います。

こういったストーリーを考えると、Samsungのプリンタ事業を日本の複合機メーカーが買収するという選択肢はあまり考えにくいです(ニュース発表時に、何故日本メーカーが買収しないのかという発言をFacebookでしましたが、前言撤回します)。日本の複合機メーカーは大抵プリンタエンジンを自社で製造しています。そして、仮に日本の複合機メーカーがSamsungのプリンタ事業を買収したとしても、Samsungのプリンタエンジンを持て余すことになると思います。

であるならば、日本の複写機メーカーは今まで通りの戦いをすることが得策になると言えます。面白いことに、キヤノンの御手洗さんはHPのプレスリリースで好意的なコメントを発表しています。これを穿った見方で考えるならば、キヤノンの有価証券報告書に記載されているように、キヤノンとHPとの間にはインクジェット製品に関するクロスライセンスがあり、また、Samsungは片面的な、つまり、レーザープリンタ事業の広範囲な技術についてにキヤノンからのライセンスを一方的に受ける契約が存在するようです。この情報に基づいて考えると、Samsungへのライセンスは相手先がHPに変わっただけであり、HPが複合機を売れば売るほどキヤノンにはライセンス料が入ってくることになります。キヤノンはHPにプリンタエンジンを販売していましたから、その分の損はあるものの、ビジネスとしては悪くないdealなのかもしれません。

あと、本来ならば特許数の比較もしたいところなのですが、HPはころころ社名を変えているので公報ベースの検索では名寄せが大変なのと、複合機に関する特許分類は多岐に亘るので検索自体が半端なく大変なので、大した検索はできていません。インクジェット製品を含めたプリンタ全般に関するIPCはB41Jですから、USPTOの登録ベースで検索するとSamsungで1057件、esp@cenetで8414件検索できました。一方、キヤノンだとUSPTOの登録ベースで703件、esp@cenetだと10000件を超えたので正確な数字が出ませんでした。で、これだけでは何か確定的なことは言えません。やはり無料のDBでは限界がありますねshock

「知財戦略のススメ」を読んで

この記事はBLOGに掲載するかFacebookに掲載するか迷ったのですが、Facebookに投稿したところ、それほどでもないという話を聞いたので、BLOGにも公開します。

遅まきながら、鮫島先生と小林誠さんとの共著にかかる「知財戦略のススメ」を読了しました。内容はなかなかに刺激的で、鮫島先生のこれまでの業績の総まとめ的な内容と、ファイナンス系の内容とが合体した書籍でした。読まれる価値は非常にあると思います。

で、一点だけ気になったことがあったので、何となく補足的なお話を。

鮫島先生が執筆を担当されている様子の第3章「特許の権利行使と知財ファンド」で、米国の代表的なパテントトロールの特許保有状況が表形式で紹介されています(表3-2)。このデータは、今はRPXのサイトの一部になっているPatentfreedomというサイトから引用したもののようです(魚拓みたいなものがあったのでご紹介)。

このランキング、元々はNPE(Non-Practing Entity)というカテゴリーでまとめたもののようで、実は、パテントトロールと言ってしまっていいのかという営業主体も含まれているように思います。

例えば、このランキングの1位はIntellectual Venturesになっています。IVの実体はよく分かっていない(サイトを見ても発明投資ファンド=Inention Investment Fund)って何をしてるか何ともわからない)のですが、IV所有の特許に基づいて権利行使したこともあるらしい(ネットで一時期話題になったことがあります)ので、まぁ、広く捉えるとパテントトロールと思えなくもないです。その後、Winsconsin Alumni Research Foundationが登場します。WARFは、ざっくり言えば大学TLOですから(とはいえ、ものすごい巨額のライセンス収入を得ていますし、特許侵害訴訟も積極的にしていますので、日本における大学TLOのイメージとは随分違いますが)、アグレッシブではあるもののNPEにカテゴライズするのがいいのかなぁ、と思います。

Rockstar Consortiumも登場します。Rockstarについては、第5章「特許の権利行使と知財ファンド」で小林誠さんが結構詳しく紹介しているように、元々Nortelの特許ポートフォリオがパテントトロールに(特に分散されて)購入されてしまうと、特許訴訟リスクが増加するだろうことを怖れて、Google、Appleを含むIT系大企業が買収に動いたわけです。その後、Rockstarは第5章に紹介されているように一部の携帯端末企業に対して権利行使をしたようですから、この点「だけ」を取り上げると、パテントトロール「」な挙動をしたようにも思えます。とは言え、その後、RockstarはRPXに特許を売却してしまっていますから、このような流れをもってパテントトロールと言ってしまうと、Motorola Mobility特許を買収し、その後売却してしまったGoogleもパテントトロールになってしまいます。

さらに、Rambusもこのランキングに登場します。Rambusのこれまでの行動を肯定するわけではありませんが、Rambusも事業を行っていたわけで、パテントトロールと呼んでしまうことに結構な抵抗があります。

当然、鮫島先生が言及されているように、NPEとパテントトロールとの線引きは非常に難しいのですが、できたら、「パテントトロールを含むNPEの特許保有状況」という紹介が良かったのではないかなぁと思っています。当然、このことが書籍の有用性に与える影響なんてないわけですが。

ディープラーニングとイノベーションの不連続性

この文章と、この後にアップする文章は、Facebookに投稿したものの、この話題はBLOG向けだと思い直して、BLOGに投稿しています。私のFacebookをご覧になっている方は、ほとんど同じ内容ですので華麗にスルーしていただければ、と(^_^;)

ここ数日、ディープラーニング系の話題(特にGoogleの囲碁ソフト)が報道されていて、自分なりにディープラーニングを使った囲碁ソフトは、過去の名手とかを集積してこの名手を選ぶ手順についても過去の名人のそれを利用したもので、かつての囲碁ソフトは、可能性のある指し手について全て妥当性を検討していたから計算が発散していたのを、指し手の選定についても過去の名人のそれを参考にしているから、妥当な計算量に収めることができたのだろうと思っている。

で、自分の理解が正しいのならば、今回の囲碁ソフトは、過去の名人の知恵を総集して、考え得る最良の、つまり優れた名人を作り上げたものなのだろうと思っている。

これでふと思い出したのが、イノベーションの不連続性という問題だった。イノベーションという言葉の定義に若干の幅はあって、定義そのものについてここで議論することはないのだけど、イノベーションというからには、過去の技術からある程度の不連続性が必要なのではないかという話があったように覚えている。つまり、知財的な言い方をすれば、年月と共に技術は連続的に発展していくのだから、進歩性、つまり、連続的発展をする技術から一定のinventive step、言い換えれば一定の飛躍(これが不連続性ということ)がないと価値のあるもの(イノベーション)として認めないということになる。イノベーションに不連続性が必要であるとすると、イノベーションと呼べるものは結構少なくなってしまうだろうし、かのクリステンセン教授も、破壊的イノベーション(disruptive innovation)だけをイノベーションと呼んでいるわけではないから、この考え方は狭きに失するだろう。

とは言え、ディープラーニングによる人工知能は、その考え方まで人間を模倣したとしても、不連続性を有するイノベーションを生成することができるのか、何とも言えないところだろうと思う。つまり、inventive stepを生成する各種手法を学習した時、「正しい」不連続性を与える思考法を選択する基準をどうするかの問題が残るのだ。様々な解決手段をディープラーニングにより創出した時、どの解決手段が「適切」であるかをestimateする(つまりは最適な効果は何であるか)ことは、現状、人間しかし得ないことだろうと思う。効果を経済的に落とし込んだところで、実現しうる範囲内でのコストの極小値を与えるものと推測される解決手段を市場が受け入れるとは限らない。

学術も少し似たようなところがあって、例えば、アインシュタインは、真空中の光速度が一定という、ある種荒唐無稽とも思えた(光には相対速度という考え方が通じないということなのだから)仮定から特殊相対性理論を導くことができた。真空中の光速度が一定であるという仮定は、それまでの物理常識からすればかなり不連続的なものであったろうと思う。そして、その不連続的思考が科学技術の先端を大きく進めたわけである。

現時点では、ディープラーニングを用いた人工知能が人間の教師になれる可能性は低いと思っている。そして、もしかしたら、人工知能に対して教師役となりうることが、ある意味での人間の人間らしいことなのかもしれない。

鴻海とシャープとの協業について思うこと

本当に久し振りのBLOG記事ですcoldsweats01。今回も、あまり知財的ではないかもしれませんが、お付き合いの程よろしくですm(__)m

最近、鴻海とシャープとの協業についての話題が盛んに報道されています。鴻海はシャープの何を狙っているのかということも盛んに話が出てますね。知財的には、「鴻海はシャープブランドが欲しいのだ」という言い方になるんだろうと思います。この考え方、確かにそうだろうと思います。加えて、こんな考え方ができるだろうということをお話しします。ただ、この見方は他の方も仰っておられるので、まぁ、あまり私のオリジナルではありませんが、そのあたりはゆるっとご覧下さいcoldsweats01

鴻海は、ご存じの方ばかりかと思いますが、EMSメーカーとしては世界的にトップ企業です。EMSメーカーですから、製造依頼があったクライアント企業のOEM、ODMをやっているわけです。例えば、鴻海はAppleのiPhoneを製造していることが知られています。Appleは自社工場を持っていませんから、社内でiPhoneの設計を行い、この設計に基づいて鴻海に製造を委託しているわけです。

さてここで、Appleがどこまで設計をしているのかを考えてみます。多分、どこかに正解が書いてあると思うのですが、時間も無いので推測混じりで。Appleはキーコンポーネンツの一部については部品メーカーと共同開発しているようですが、大抵は社外のメーカーが製造した優れたキーコンポーネンツを使ってiPhoneを設計し、このキーコンポーネンツを使った製造を鴻海に委託していると考えられます。さて、Appleは回路設計はしてるでしょうが、その次の基板設計、筐体設計、さらにはアセンブルまで設計しているかどうかは何とも言えません。鴻海は、概略の製品設計さえあれば、以降の設計から製造まで自前で行える能力を持っていますので、Appleがその気になれば、設計のかなりの部分を鴻海に委託できます(どこまで委託するかは、Appleが製品としてのiPhoneのどこがコアであるかをどう考えるかによると思います)。

このように、鴻海は、設計から製造までのほとんどをこなす能力を持っています。唯一持っていない、あるいはそれほどのレベルに達していないだろうと考えられるのは、商品企画能力です。商品企画は、市場を見て、技術を見て、どのような商品が市場に受け入れられるかを考え、その成果として商品の概要を企画するものです。以前は、いわゆる軽薄短小を実現するためには機構部分の設計や基板の高密度化、さらには筐体内にどのように部品を配置(アセンブル)するかについての知識やノウハウが完成品メーカーに集中していたわけですが、これらの知識は今は優れたEMSメーカーであれば十分持っていますから、その意味で、完成品メーカーに残された優れた機能としては商品企画が大きいと言えます。

台湾メーカーでも、パソコン周辺機器あたりであると独自の商品企画をしてユニークな製品を製造、販売している事例がありますが、いわゆる電気製品であるとまだまだ日本の電機メーカーの商品企画能力には一日の長があるように思います。鴻海としては、シャープの商品企画能力が欲しかったのだと思います。ある意味、EMSメーカーにとっては最後の1ピースを手に入れることなのだと思います。
こう考えると、鴻海がシャープの太陽電池事業については協業の埒外としている理由もよくわかります。太陽電池事業は、高効率化された太陽電池がメインであり、こういった、ある意味部品事業に近いところはあまり商品企画能力が問われるところではなく、コンポーネンツとしての性能をひたすら追求する(太陽電池事業がそれでいいというわけではありませんが)べきものであり、鴻海として協業するメリットをあまり感じないのだと思います。

さて、少し知財的な話もしましょう。前回、鴻海とシャープとの協業の際に議論されていたのが、シャープの複写機事業において他の日本の複写機メーカーからのライセンス供与等が国外に流出する(技術流出)のはいかがなものかということだったようです。
ライセンス供与元からすると、ライセンス供与先が他のメーカーにM&Aされることは当然のように想定しているはずで、ライセンス契約にもそれに対する対応条項が含まれているはずです。もし、他の日本の複写機メーカーからのライセンス供与が、ライセンス供与先の親会社の変更により拒否できるという条項(かなり過激な条項ですが)があるならば、技術流出云々についてあまり議論しなくてもいいように思えます。
とは言え、仮にライセンス供与元からのライセンスが全く得られないとしても、複写機技術自体、さらには技術者は鴻海に転籍する可能性があり、こうなると、ライセンスで縛ったところで一定の技術流出を念頭に置かなければならないのだろうと思います。

まだ鴻海とシャープとの協業についての結論は出ていないように思っていますが、どのような落ち着き方をするかは引き続き注視していきたいと思っています。

日本人とベンチャー雑感

Facebookに書こうかとも思ったんですが、結構長くなりそうなのでBLOGでhappy01

日本人は○○である、という分析は一筋縄でいかないな、と思うことがあります。例えば、日本人は勤勉で一つの道を究めるのが得意という言い方があります。この説に依れば、日本人は一つところに住み、自分の天職ともいえる職業に一心不乱に打ち込むのが得意、という言い方にもつながりそうです。当然、そんなことはないと反論するのは比較的簡単です。曰く、坂本龍馬はどうであったか。戦前の世界を一時期ではあっても一世を風靡した鈴木商店はどうであったか。さらに、戦前から戦後にかけてハワイ、南米に移住した移民のみなさんはどうであったか。日本人は農耕民族であるからという説明がされることが多いですが、日本人が定住傾向が強いであろう農耕民族ばかりであるならば、海を渡って活躍する気概を持つ人々は日本人ではないのか。

一方で、海外に目を向けた人々や企業のみが成功しているとも言えないと思っています。例えば、ソニーやホンダは非常に早くから海外市場の重要性を認識し、企業の規模からすれば一歩間違えると無謀ともいえる時期に海外進出を果たしています。しかし、国内市場を重視した企業が成功していないわけではなく、例えば、松下電産(パナソニックですね)やトヨタ自工(意識して古い名称を使っています)は企業の歴史からすると海外進出をした時期がそんなに早くないと思っています。これら企業の売上高からみると、(結果的にこれら企業はいずれも海外での地歩を確かなものにしていますが)国内市場をまず重要視した企業が成功していないとは言えないでしょう。

で、こんなことを考えていると、巷間言われる「日本人はベンチャー志向ではない」という説は本当なんだろうかという気がしています。

日本人が「かつて」ベンチャー志向でなかったかと問われれば、答えはNOです。先程例示したホンダであれソニーであれ、発足当時はれっきとしたベンチャー企業です。そもそも、企業のスタート当初から大規模なものであったのは極めて例外(国策企業や民営化された企業のように予め成功がある程度予想されたもの、あるいは分割、M&Aされた企業などが多い)だと思っています。日本人に起業意識がないのかと言われれば、これもNOでしょう。

気にすべきは、最近の10年~20年くらいの期間において、若者を中心に内向き志向が高まっているのではないかという意見があり、また、この期間において成功をしたベンチャー企業の数がそれほどでもないという意見があることです。一方、米国では継続的に成功を遂げたベンチャー企業が輩出されています。このようなことを背景として、「日本人はベンチャー志向ではない」という言われ方がされることも承知しています。

上に書いたように、日本人を一律に、また均一に考えること自体はできないと思います。日本人の国民性からしてベンチャー志向ではないと断定することはできません。しかし日本初のベンチャー企業の成功例が最近ないのも事実だと思っています。

私のMOT社会人大学院時代の恩師は長年ベンチャー企業論を研究していて、この、「日本人はベンチャー志向ではない」という命題の検証を行っていたそうですが、大学院を退官されるときの記念講演で、「結果的に何が理由であるかは判然としない」という一応の結論に至ったそうです。

私がMOT社会人大学院に通っていた頃も、また、その後も、シリコンバレーを代表とするアメリカのベンチャー企業を産む(インキュベートする)環境と日本の環境との差についての研究があり、その中で、費用面(エンジェル投資家の存在など)、環境面(アントレプレナーを支える専門家集団など)の差異が指摘されていました。国主導の資金面でのサポートは、ここ10年間で様々な施策が採られており、また、日本におけるベンチャーキャピタルも(それなりに)頑張ってこられていると思っています。また、ベンチャー企業に従事する専門家、例えば会計・経理関係の人材や法律面をサポートする人材(弁護士など)も以前より充実していると思います。中小企業をとりまく団体(商工会議所など)ではベンチャー企業に対する様々なサポートをしていますし、セミナーも数多く開催されています。

こうなると、やはり、私の恩師が述べたように。最終的にはよくわからんという結論になりそうですし、日本人がrisk-takingではないという一律な言い方も納得のゆかないところです。

また、日本では起業できないがアメリカなどに行けば起業できるという言い方も、果たして本当だろうかとも思います。アメリカは全世界から優秀な人材が集合し、その中での切磋琢磨をします。結果、非常に優秀な人材のみが成功を勝ち得るのだと思います。つまり、成功者は相当なリスクを冒してその結果莫大なリターンを得ているのだと思うのです。日本では考えられないハイリスク・ハイリターンだということです。現状では、もし自分がそういった極端なハイリスク・ハイリターンを得ようと思うならばアメリカに渡ればいいことですし、まずは国内市場を固めて海外市場というシナリオを描くならば、それもまたいいでしょう。要は選択肢のそれぞれ一つということであるように思うのです。市場を見て行動するということはいずれも共通しています。

ただ…自動車産業であれ家電産業であれ、かつては国内市場において苛烈ともいえる市場争いをして競争力を磨き、その競争力をもって海外市場で一定の地歩を固めたとも言えます。現在の国内市場は全般的にそういった過酷な戦いを見ることがなくなってきています。それは、企業戦略論が精緻になった関係で、同一市場における国内企業のカニバリズムを避ける方向に企業が進んでいる結果かもしれません。ちょっと前の流行の言葉で言えば、レッドオーシャン戦略を採用する企業が極端に少なくなった、みなブルーオーシャン戦略を目指すようになった、と言えます。一方、前にご紹介した中国でのイノベーションは、いずれも国内市場における苛烈な戦いの勝者が世界的な勝者になりつつあると思っています(HuawaiとZTEの戦い然り、山塞機の中から生き残ったともいえる小米然り)。

こう考えてみると、身の程を知ることも非常に大事なんですが、身の程を超える勝負をしてこそ世界に打って出る体力を養うのだとも思います。まずは、自分自身がどの程度risk-takingできるかを認識することが大事ですね。

iPhone、サムスン、そして山塞機(謎)

本日は、あんまり知財に関係ない話を徒然と。ざっくり書いてますので、参考文献が幾つもあるんですが、ほとんどすっ飛ばしてますcoldsweats01 あと、かなり断定的に書いてますので、お気に召さない方も結構いらっしゃるかと思いますので、予めお詫びをm(__)m

数日前、元サムスンの日本人の方が書かれたMOT的な記事が、私のTLで少し話題になっていました。詳細は記事をご覧になっていただくとして、私なりに要約すると、日本の電機メーカーの製品は機能が過剰であるので、サムスンはこの機能をリバースエンジニアリング(筆者の方はこれもリバースエンジニアリングだと仰っています)して、仕向地に必要な機能のみを再装備した製品を製造している、これがサムスン流のモノ作りだ、成功の要因だ、と仰っています。

この説は、以前から私のBLOG記事で時々取り上げている、例えば湯之上隆氏が主張されている日本の半導体メーカーの衰退の原因である過剰品質と通じるところでもあり、また、国毎のマーケティングを明確に行った結果としての商品企画のやり方とも捉えられますから、納得のゆくところです。しかし、私がさらに考えるに、このサムスンの成功体験が、これから(もしかしたら既に)のサムスンの苦境を招く原因になるのではないかと思っています。

その苦境の原因であると私が考えるのが、Apple社のiPhoneを初めとした製品及びその製品を製造するに当たっての商品企画のやり方です。私が考えるに、iPhoneやiPadは、機能の積み上げから商品企画がされているのではなく、単一の統一した世界観(そしてそれは単一の人間(Steve Jobs)が最終的にsuperviseする)を商品に具現化するための商品企画であり、各々の機能は、その世界観を達成するために創造されています。従って、サムスン流に従って個々の機能をリバースエンジニアリングした段階でその世界観は統一性を失い、個々の機能をいかに再装備しても、サムスン流の世界観を構築することはできないのです。否、そもそもサムスンにはそういった世界観という概念がないのだと思っています。「神は細部に宿る」という思想をサムスンは理解できていないのだと思います。

こう考えると、サムスンは、iPhoneやiPadをベンチマークとして取り上げた時点で今後訪れるであろう苦境に至る原因を作ったと言えます。いくら機能を積み上げ、個々の機能をbrush upしても、「こんなに便利な製品を作りました」というサムスンのメッセージは、いずれ到来するであろうライバルの中に埋もれ行く可能性を示しています。

こんなことを考えているのは、パクリ品として散々批判されてきた中国の山塞機の中から、新しいイノベーションの芽が出ているだろうと思っているからです。元々、私は、中国の山塞機は中国流イノベーションの表れだと思っていました。パクリ品といえ、パクリ品間の競争は過当なものです。そして、そういった過当競争の中で勝ち残ったメーカーは、実は国際競争力を十分備えたものになれる可能性があります。

丁度戦後、日本では雨後の竹の子のように原動機付き自転車を製造したメーカーが多数出現しました。その中で勝ち残ったメーカーは、結果的にバイクの世界市場を席巻しました。電機メーカーは全体的に大規模な、しかも戦前からの伝統的メーカーがかなり多かったのですが、それでも、国内市場での熾烈な争いの結果、世界的評価を得るにまで至りました。

中国の山塞機メーカーを日本のそれと同列に取り扱うのはかなり乱暴な議論なのですが、国内市場での競争力獲得が国際競争力を結果的に獲得するだろう道筋は似ていると言えます。

そんな中国の携帯電話メーカーで、国際競争力を獲得しているのではないかと私が考えているのがシャオミ(小米)です。シャオミはiPhoneみたいにスタイリッシュでかつ高機能な端末を製造し、しかも、iPhoneより圧倒的に安価です。シャオミの社長はSteve Jobs的なプレゼンをし、また、カリスマ的であるらしいです。こうなると、サムスンは、ベンチマークしていたiPhoneにより似た端末がより安価で提供される中で、中途半端な位置付けにならざるを得ません。

では、山塞機がこんなに安価に携帯端末を製造できてしまうのは何故か、そこには台湾メーカーのMediaTekという存在があります。MediaTekは携帯電話に必要な機能を凝縮したチップを安価に提供しています。なので、山塞機メーカーは、このMediaTek社のチップを使えば結構簡単に携帯端末を製造することができてしまいます。

ここで一つ疑問に思うことは、携帯端末には標準化技術を含む多数の特許が存在します。従って、普通に携帯端末を製造するとライセンス料がかなりの額になるのではないかと想像できます。このからくりの裏にはQualcomm社がいるようです。Qualcomm社はMediaTek社に対して自社の特許をライセンスしているようです。何故Qualcomm社がMediaTek社にライセンスしているかというと、Qualcomm社からすると中国の山塞機メーカーに対して個別にライセンスする手間を省くために、この山塞機メーカーがこぞって採用しているMediaTek社のチップに対してライセンスをし、その代わりにMediaTek社のチップを採用している中国メーカーの情報をQualcomm社に提供する約束をしたようです。これならば、Qualcomm社は実利を取ることができ、しかも中国メーカーの情報を簡単に入手できるわけです。とは言え、最近はこのスキームもちとうまく行っていないという話もあるみたいですが。

Qualcomm社の特許に関する手法は時々取り上げられている方がおられるのですが、Mediatek社のこの手法について研究をされている方はほとんどいないようで、私個人としては何故だろうと思っています。ちなみに、上でご紹介した湯之上隆氏は、このところMediaTek社の戦略を取り上げた記事を幾つか書かれてます(記事1記事2)。

加えて、シャオミの場合、いわゆるファブレスメーカーとしてアセットライトな経営をしているようです。このやり方は、正にAppleが実現したやり方で、Foxconn社などのEMSを利用して安価で高品質な製品を消費者に提供しつつ高利益を実現する手法です。シャオミからすれば、お手本は既にAppleが提供し、しかもチップはより安価に実現できる(機能的に同等であるかどうかは何とも言えませんが)メリットがあるわけです。

振り返って、サムスンはシャオミと戦うことができるだろうか…なかなか難しいと思います。少なくとも中国市場ではシャオミのほうが有利でしょう。先進国ではサムスンの知名度が大きく優っていますから優位は揺るがないと思いますが、一方でサムスンはiPhoneに追いつくことは難しいでしょう。

サムスンに対する私の見通しは悲観的に過ぎるかもしれません。しかし、サムスンの牙城に挑戦する有力な挑戦者が出現したことは事実だと私は思っています。これから、どうなるか。

テレビ事業の未来はどっちだ(謎)

本日は久しぶりにMOT的な雑談を。

日本の電機メーカー、特にAV機器を主力とするメーカーは、かなり決算の数字が苦戦しているようです。その大きな原因となっているのがテレビ事業の不振みたいです。日本の電機メーカーにとってテレビ事業は、グローバルな売り上げをもたらしてくれたエース級の存在だったと思うので、何故、そのテレビ事業が不振なのか、あれこれと報道しているようです。

日本の電機メーカーのテレビ事業の不振の原因を、韓国メーカー、つまりサムスンとLGの躍進に求めるマスコミが多いだろうと思います。確かに、世界的なシェアでみれば、サムスンとLGが上位を占めています(結構最新のデータはこちら)。しかし、理由はそれだけなのでしょうか。

このことを考えるために、改めてテレビを見るのはどういったシチュエーションなのか、何故、みんなテレビを見るのかを考えてみます。テレビの黎明期は、一家に一台のテレビがあり、家族団欒の風景の中に(しかも中央に)テレビがあったように思います。次に、若年層を中心に、自分の部屋にもテレビを持つ時代、つまり、一人に一台のテレビの時代が訪れます。家族全員で見る、つまり居間にあるテレビ以外に、子供が自分の部屋で見るテレビがある時代です。若年層の一人暮らしの部屋にもテレビが必ずあった時代です。

そうこうしているうちに、日本では若年層を中心にテレビを見る機会が減ってきました。その背景にはネット社会の発展やらテレビのコンテンツの魅力が減退したと言われていることやらがあると思います。一方で、世の中はケーブルテレビ、BS、CSを中心に急速に多チャンネル化が進んできました。さらに、Chromecastのような機器が出現したことで、ネットの画像をテレビで視聴することもできるようになりました。

このように、今までのようにテレビでニュースやバラエティを見る頻度が、特に若年層で減少傾向にあるだろうと思う一方、テレビで多種多様なコンテンツを視聴できる環境が整ってきています。

とは言え、上に書いた事情は、主に日本の事情について説明したもので、発展途上国ではまだまだ一家に一台のテレビのところも多いですし、世界的規模で見ると、ようやくブラウン管テレビの出番がだいぶ少なくなり、いわゆる薄型テレビの普及が始まったところもかなりあります。

日本にいると、やれ3Dだ、やれ4Kだという最先端技術の話しか聞こえてこないのですが、世界的には実に多種多様な視聴形態があり、それに伴ってどのような仕様のテレビが売れるかも実に多種多様です。TVメーカーは、こういった多種多様なニーズにどのように応えていくかが勝負になります。

一方で、地上デジタル放送も世界的にだいぶ普及してきましたし、ディスプレイもデジタル駆動が可能なものばかりになりましたので、TVもフルデジタル化がされたと言えます。デジタル化のメリットは、製造時の微調整を可能な限り少なくした均一化した製造が可能になることでもある一方、一定の回路がパッケージ化されたものを組み合わせるだけで(ちょっと極端な言い方ですが)ある程度の寄せ集めでTVが製造できてしまうこともあります。このところのTVの極端な低価格化の原因は、一つはサイズの大きい液晶パネル等が安価に提供できていることもありますが、また、回路自体の標準化、パッケージ化が進んだことで、特別な機能を搭載しなければ、チップの組み合わせでTVが製造できてしまうこともあると思っています。

TV製造のハードルが低くなったことで、様々なメーカーがTVに参入しています。デジタル放送の範囲であれば画質は一定以上のものが保証できますので、TVを視聴するということだけを考えれば、価格の安いものを選ぶのが消費者の常でしょう。

では、日本の電機メーカーの話に戻って、日本の電機メーカーの売りは何かと言えば、上に書いたような新参者(ちと失礼な言い方ですが)が製造したTVよりも「高画質、高機能」ということだと思っています。日本の電機メーカーも価格重視の製品を製造することは可能ですが、しかしながら、製造コストや販管費が全般的に割高になってしまうこともあり、価格競争をすると不利な面は否めません。

韓国メーカーの場合、日本メーカーほどの高品質を目指すのではなく、そこそこ高品質でしかも日本メーカーより安価な製品を提供しているという話を聞いたことがあります。これであれば、現地の人からすると「手に届く高級品」を提供しているメーカーになれ、ブランドイメージも高く維持できますし、売り上げも確保できます。

テレビ事業には、上に書いたような様々な課題があり、日本メーカーとしてどの方向に進むべきか、なかなか難しい問題が横たわっている気がします。そもそも、テレビ自体がどの方向に発展するか、予想することも難しいと思います。

現在、最先端技術として提供されているのは3D、4Kといったところだと思います。3Dについては少々先細りの感がありますが、それは偏にコンテンツ不足にあるんだろうと私は思っています。つまり、現時点で3Dで視聴できるのは一部の映画コンテンツ等に限定され、放送波についてはまだ試行段階に止まっています(Wikipedia参照)。つまり、3Dで視聴しようにも放送波しか視聴しない人にとっては何も3Dになっていないわけです。4Kも似たような状況にあると思います。多分、ブラジルワールドカップは4K対応機器で録画しているはずなので、放送局側には既にそれなりの4Kコンテンツがあります。問題は、それをどうやって視聴するかです。まだ日本では地上波で4K対応の放送がされていません(Wikipedia参照)ので、機器はあるもののなかなか一般視聴者が4K画像を視聴するまでには至っていません。

また、Chromecastの発売で一気に身近になったネットテレビと呼ばれるものも、(貧弱ではあったものの)TVには随分前からブラウザが標準搭載されており、TVでネットコンテンツを視聴することはできたわけです。Chromecastが注目されているのは、スマホ等で視聴できるフルHDコンテンツを、そのままの解像度で簡単にTVで見られるということにあると思っています。

本来、ネットテレビの最大の利点は放送と通信との融合にあると思っています。スマホの画像をTVで見られるというのは、既存の技術の延長線にありますし、何故スマホの画像をTVで「みんなで」視聴するかというシチュエーションを考えると、絶対的に有利なメリットはないように思っています。放送に対するinteractionを通信で行える世界を提供するTVが次世代TVなのだろうと思うのです。

とは言え、現時点では放送と通信との融合による明確なメリットをどのTVメーカーも提供できていないように思います。あと、放送業界と通信業界との間に微妙な距離があるようにも思います。

特許文献レベルでは、実はネットテレビに関する特許出願が数多く出願されています。私から見て面白いアイデアが多数存在するのですが、現時点ではほとんど実用化されていません。ユーザーに対する訴求力の問題なのか、時期尚早と判断されているのか、本当のところは闇の中なのですが…

とは言え、ネットテレビについてユーザーの支持が得られる製品を日本のメーカーが作り上げることができるならば、それは大きなAdvantageになるのだと思っています。

実は、TV上で様々なネットコンテンツが視聴可能である環境は、中国が既に一般化してしまっています(例えばこの記事)に紹介されているように)。そして、仮に中国初のネットテレビが世界的にde factoの標準になってしまった場合、日本メーカーは様々な先進的取り組みをしていながら、中国の後塵を拝するかもしれないのです。そうならないためにも、日本メーカーの今ひとつの頑張りを望みたいところです。

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